FMの響き: 微かなカオリ
DX7で広く知られるようになったFM音源。その登場以前には、オシレータから出力されるノコギリ波や矩形波にフィルターを通すことによって音色を作る、減算型のアナログシンセサイザーが一般的であったのに対し、FM(Frequency Modulation)は、サイン波に基づき、あるサイン波に別のサイン波を変調させることによって倍音を含んだ音を合成するという、これとは全く異なった原理に基づいて音色を作る方式である。そして、Perfumeの楽曲で最もFM音源による音色が特徴的に使われているのは「微かなカオリ」ではないだろうか。
下は、「微かなカオリ」の通常のトラックにOriginal Instrumentalを逆相にして加え、ドラムなどの音を消去することによって、このシンセブラスを聴こえやすくしたものである。中央からやや左にシンセブラスの音が聴こえるが、これがまさにFM音源ならではの特徴的なシンセブラスの音色である。
減算型のシンセサイザーでは、通常、このようなブラスの音色変化を、ローパスフィルターの開き具合(カットオフフリケンシーの調節)によって表現する。これと似たようなことをFMで行うためには、周波数変調をかける側のサイン波である「モジュレータ」のアウトプットレベルを上げ下げするのが普通である。ところが、減算型のシンセサイザーのフィルターの開け閉めと、FMのモジュレータアウトプットレベルの上げ下げによる音色変化は実際には異なり、FMによる方が複雑な音色変化が生み出されるのである。これは、FMシンセを使って、いわゆるアナログシンセのようなサウンドを出したい場合には欠点となってしまう。実際、私自身も、DX7でアナログシンセのような音を創ろうとしたものの、なかなか思うようにできなかった経験を持っている。しかしながら、逆に言えば、このような複雑な音色変化は、減算型のシンセサイザーでは決して出すことのできない、FMならではの独自の響きなのである。現在でも、このようなサウンドを狙ってシンセブラスにFM音源を用いる例はよく見られる。「微かなカオリ」では、まさにこのような狙いからFMが使われたのであろう。
そこで、FMと減算型のシンセブラス音をわかりやすく比較するため、上と同じ部分について、ドラム・ベーストラックに加え、前半はFMシンセであるNative Instruments FM8による音色、後半は減算型シンセであるNative Instruments Massiveによる音色で、同じシンセブラスのフレーズを演奏してみた。
シンセブラス音色の比較のため、エフェクトは全てオフにして録音を行っている。また、なるべく比較しやすくするため、FM8、Massiveとも一系統のみで発音する音にしてある。これを聴いてみると、後半の減算型のシンセブラスの音色変化と比べて、前半のFMのシンセブラスは音の変化の様子がかなり複雑であると感じられるのではないだろうか。もちろん、アナログシンセのシンセブラス音もオーソドックスで味わい深いものであるが、中田氏は、「微かなカオリ」の穏やかな雰囲気にはFMの複雑な音色変化がよりマッチしていると感じたのかもしれない。
PTO: ver1.0 (2014/04/06)