異化と循環:The Opening
Perfumeのニューアルバム「JPN」のオープニングを飾るのがその名も"The Opening"である。短めのインストの曲だが、キーがCm(あるいはEb)と、最後の曲「スパイス」と統一されており、アルバムを循環させて聴いたときに自然につながるように感じられる。
さて、この曲の冒頭の2つの「コード」であるが、ベース音が「ファ−ソ」と動いていることから、「スパイス」の冒頭の2つの「コード」とベースの動きが同じであり、両者は同じなのではないか、と感じられるかもしれない。このスパイスの冒頭の「コード進行」については、capsuleの「World of Fantasy」のサビの「コード進行」と同一であり、また坂本龍一氏の「千のナイフ」の冒頭部にも相似している。「スパイス」、「World of Fantasy」、「千のナイフ」の該当部分で使われているのは、4度積み重ねの和音の平行移動という構造の「コード進行」である。「スパイス」のキーであるCm(あるいはEb)で言えば、積み重ねる音を下から書くと、「ファ、ラb、シb、ミb」 → 「ソ、シb、ド、ファ」という構成になっている。
さて、この「コード進行」を使って、"The Opening"の冒頭部分を模したものが以下である。

これを聴くと、「スパイス」とか「千のナイフ」には似ているものの、"The Opening"の感じとは異なることがわかる。音をきちんと採り直して作ったものが以下である。

譜面を比べるとわかるが、実は冒頭は、「ファ、ソ、ド、ミb」、すなわち、「Cm / F」という「コード」になっている。このように、"The Opening"の冒頭は「スパイス」とは違う「コード進行」だったわけである。
ここでこのような「コード」が使われているのは、それに続く部分と関係がある。改めて最初から16小節分の和声を見てみよう。

譜面から明らかなように、1〜2小節目と5〜6小節目のベースを除いた和音構成が同じになっている。すなわち、「Cm / F」の上部構造は、Ab△7の上部構造に通じていたわけである。
また、この曲にはオリエンタルな雰囲気が感じられるかもしれないが、曲全体として見ると必ずしもそうではない。例えば、構成音を眺めていくと、最初の4小節までにEbのキーの構成音が全て現れており、全体が5音階でできているというわけでもなく、3小節目後半から4小節目の「コード進行」はドミナントモーションであり、西洋音楽的、あるいは、機能和声的である。ちなみに、3小節目後半のBb7の上部ヴォイシングが「レ、ラb、シb」となっているが、このヴォイシング、その昔オルガン教室でG7を左手で「シ、ファ、ソ」と押さえるように習ったのを彷彿とさせる。そういうこともあり、この部分はどちらかというと、クラシカルな雰囲気の方が強く感じられる。
もちろん、楽曲構造は全体で眺めるだけでなく、様々な時間単位で見るという観点も重要である。曲全体としてEbの構成音全てが使われていたとしても、細分化した時間単位ではそうではない。この曲では、4度積み重ねの「コード」が、1, 3, 5, 7, 9, 11, 13, 16小節目と、ほぼ2小節に1回登場する。このような「コード」がペンタトニックの響きを想い起こさせ、そしてオリエンタルな雰囲気を感じさせるのだといえる。西洋と東洋の融和とも言ってもいいかもしれない。
アルバムトータルとしての完成度を高めるため、最終曲「スパイス」とベース音を共有させ、循環構造を形成するという和声的共通性を持たせつつも、完全に同じではなく異化させた「コード進行」を使っていること、4度積み重ねという東洋的な響きと機能和声というクラシカルな響きという異質のものが循環していく「コード進行」など、"The Opening"という小品には、様々な循環と異化が内在している。
Original: Perfume "The Opening"の「コード進行」(2011/12/13)
PTO: ver1.0 (2015/09/13)